2017年下半期映画ランキングベスト13!

2017年ももうあと数時間で終わり。今年は映画館で24本観ました。月に2本。映画サイトの管理人としてはもうちょっと観ないとダメですね。ともあれ今年もお世話になりました。来年も映画ランキングサイトCHANNELCINEMA.COMをよろしくお願いいたします!

13位
エルネスト


監督:阪本順治
出演:オダギリジョー/永山絢斗/フアン・ミゲル・バレロ・アコスタ

主人公のフレディ氏は一度もエルネストって呼ばれなかった気がするが・・

偶然ですがチェ・ゲバラの命日からちょうど50年経った2017年10月9日に観ました。チェ・ゲバラはそのイケメンなビジュアルも手伝って今も世界中で人気のある革命家。そのゲバラ人気にあやかろうとした作品で、日本とゲバラを無理にこじつけた印象でした。タイトルのエルネストというのはゲバラの本名で、ゲバラからこの名前をもらった日系人がいたという話なわけですが、ほとんどチェ・ゲバラは関係ないです。グッズ売り場ではゲバラグッズがいっぱい売られてました。ゲバラの映画じゃないのに・・。
それともう一つ痛感したのは、とりわけエンターテイメントという仕事においては「努力」は必要条件だけど十分条件ではないということ。本作で日系人を演じるオダギリージョーは全編スペイン語のセリフを話します。さぞかし努力したことでしょう。でもどうしても周りのネイティブな役者が話すスペイン語とは違っていて、演技が下手くそな役者に思えてしまいました。
でもオダジョーファンの妻はめちゃくちゃカッコよくて本作は満足だったそうです。ということで僕の嫉妬もあって最下位にさせていただきました(笑)

12位
エイリアン:コヴェナント


監督:リドリー・スコット
出演:マイケル・ファスベンダー/キャサリン・ウォーターストン/ビリー・クラダップ

知らない星を歩く時は必ずヘルメットをかぶりましょう

今から20年以上前の僕がまだ学生だった頃は、戸田奈津子が翻訳をしている映画が多くて、僕が観る洋画のほとんどを戸田奈津子が訳していたので、もしかして株式会社戸田奈津子っていう翻訳会社があるんじゃないかと本気で思ったほどです。リドリー・スコット監督もそれに匹敵するくらいに監督作品が多いような気がしていました。でも調べてみるとそんなに作品数は多いわけじゃなくて、活躍している期間が長いからそう感じていたようです。リドリー・スコット監督は今年でなんと80歳。最初のヒット作のエイリアンは1979年の作品です。その後も82年のブレードランナーとか、2000年のグラディエーター、2001年のハンニバルと40年近くも映画界のトップに君臨してるわけです。
いやー80歳でこんな映画作っちゃうんだ。その年齢を考えると凄いなあと思うけど・・。その人生の大先輩であることに対する敬意を取り払うと・・・残念ながら本作にはガッカリしました。
エイリアンシリーズはすごく好きなので、前作のプロメテウスはかなり期待して観たんだけどかなりのガッカリでした。そのプロメテウスの続編だから、過度な期待はできないもののさすがにプロメテウスよりはマシだろうとかなりハードルを下げて映画館へ。それでもガッカリ作品だったので、冷静に比べるとプロメテウスの方がまだマシだったかもしれないです。
プロメテウスの「そんなバカな!」というシーンの一つに、探検隊が異星を探索中にあっさりとヘルメットを取るシーンがあるのですが、本作では宇宙船から異星に降り立つその瞬間からヘルメットをかぶってません。ちょっとコンビニ行ってくるわというノリで(まあ武器は持ってるけど)見知らぬ星に降り立ちます。それで、プロメテウスも本作も案の定・・という展開になるわけです。もちろんそんな細かいところには目をつぶりましたけどね。それでも全然ダメでした。でも、続編があったら観に行っちゃうだろうなあ・・。それだけあのエイリアンというキャラクターが強烈なんですよねえ。

ちなみに戸田奈津子ですが誤訳がかなり多いようですね。そのせいか分かりませんが最近はあまり見かけなくなった気がします。

11位
IT


監督:アンディ・ムスキエティ
出演:ジェイデン・リーバハー/ビル・スカルスガルド/フィン・ウォルフハード

びっくり箱系ホラー映画

一言でホラーと言ってもいろいろだなあと思った次第です。僕はホラー映画に対してはゾクゾクするような怖さを期待します。その映画を観た日は夜中にトイレに行くのがちょっと怖くなっちゃうような怖さ。でもホラーと呼ばれる映画には単に血みどろのシーンがたくさん出てくるようなスプラッターというジャンルもあって、これは怖いというよりは気持ち悪いだけ。この手の映画は苦手。このITはかのスティーブン・キングの最高傑作と言われる作品で、予告編も非常に良い出来でかなり怖がらせてくれることを期待していきました。
結果、ホラーというのは怖い映画と気持ち悪い映画以外にもう一つあるのだなあと教えてくれました。それは驚かす映画です。静寂を突き破って突然ドンって効果音とともにピエロが出てきたら、それはもうびっくり箱と同じわけですから誰でも驚きます。まあ、そんなびっくり箱みたいな映画。それでも気持ち悪い映画よりははるかにマシですね。
あと、話が変わるようで変わらないのですが、今年の9月にシカゴでパンクのフェスに行った時に、PENNYWISEのライブを見ました。学生時代に大好きだったバンドなのですが、本作のピエロがPENNYWISEという名前だったのでおや?と思い調べてみると、PENNYWISEというバンド名はこのピエロからとったのだと知ってへー、となった次第です。ちなみにシカゴではPENNYWISEの名カバー曲であるスタンド・バイ・ミーも聴けました。スタンド・バイ・ミー・・・これもスティーブン・キング原作で映画化されてますが、バンドメンバーはスティーブン・キングのファンなんですかね??

10位
ジョジョの奇妙な冒険ダイヤモンドは砕けない 第一章


監督:三池崇史
出演:山﨑賢人/神木隆之介/小松菜奈/岡田将生/新田真剣佑

やれやれだぜ

熱狂的なファンを持つ原作の映画化というのは勇気がいると思います。よほど良い作品を作らない限り原作ファンにけちょんけちょんにけなされてしまいますから。そういう意味では漫画や小説の映画化に携わる人の勇気には敬意を払いたいと思います。ジョジョも熱狂的なファンが多い漫画だけど、熱狂的なファンのこの作品に対する評価はどうだったんでしょうね。僕はジョジョに対してはそこそこ好きといった程度だけど、正直がっかりでした。僕なりに感じるジョジョの魅力は独特なポージングとセリフ。ポージングについてはジョジョ立ちって言葉もあるくらいなのでその魅力は僕が言うまでもないでしょう。セリフは・・うまく言えないけどキザというか回りくどいというかとにかく一癖ある言い回しが好きなんだけど、そういう独特なセリフの言い回しとカッコイイポージングが決定的に足りなかったように思います。
その理由はなぜか。三池監督にジョジョ愛が無いからです。もう断言してしまいます。原作が好きなら良い作品が作れるってもんでも無いけど、少なくとも原作を好きじゃなければ良い作品は絶対に作れないと思います。パンフレットのインタビューに書いてあったけど、三池監督は基本、来たオファーは断らないそうです。どうしても作りたかったというよりは頼まれたから断らなかったということでしょう。漫画の映画化に携わる人の勇気には敬意を払うけど、熱狂的なファンがいる原作と知りながら、別に好きでもないけど頼まれたからしゃーなしで作りましたという雰囲気を醸し出すのはいい気持ちがしないです。

実写請負人の山﨑賢人に主役を任せておけばなんとかなるだろう的なキャスティングもおいおいって思ったけど、山﨑賢人は案外結構良くてグレートだったのでした。

9位
 打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?


監督:新房昭之
声の出演:広瀬すず/菅田将暉/宮野真守

君の名は。級を期待してしまいました

一言で美人と言っても、丸っこい可愛い美人とシュッとした綺麗な美人に分かれると思ってます。で、広瀬すずはダントツで可愛いほうの美人。しかも見た目だけじゃなくて声も「可愛い」のだなあと改めて思いました。これ、別に広瀬すず褒めてたいわけじゃなくて、凛として大人びた中学生ヒロインの声に全然合ってなかったなあということが言いたいわけです。
男の子の声を演じた菅田将暉も合っていないという評価を見かけたけど、そちらはあまり気になりませんでした。これは広瀬すずが悪いんじゃなくて、配役を決めた人の責任なんでしょうね。もっと言うと配役を決める人も本当にいい作品を作ることだけを考えればいいわけじゃなくて、商業的なことや事務所の繋がりとか大人の事情をたくさん考慮して決めなきゃいけないんんだろうなあとちょっと切なくなりました。
監督もプロデューサーも観客の僕ももしかたら広瀬すず本人も、このヒロインの声優は広瀬すずじゃないほうが良いんじゃないかって思ってるかもしれなくて、誰も納得してないかもしれないんじゃないかなと思ったわけです。
会社という組織で仕事をしていると、全員が納得してない方向に物事が決まっちゃうことがあります。その残念な決定を吹き飛ばすような良い仕事ぶりで挽回できれば良いのですが、それがないとその仕事は悲惨なもんです。

この映画も多少声優がキャラに合っていなくても、物語が良ければ気にならなかったと思うんだけど、ちょっと挽回できなかったかなあ。あ、でもエンディングテーマソングは良かったな。

8位
スター・ウォーズ/最後のジェダイ


監督:ライアン・ジョンソン
出演:デイジー・リドリー/アダム・ドライバー/マーク・ハミル

正史から外してスピンオフにしてしまいたい

前作のエピソード7やローグ・ワンはかなり楽しめたんだけど、今回はつまらないどころか憤りを感じてchange.orgのスターウォーズの正史から本作を外そうという運動に参加したほどでした。過去のスター・ウォーズにもいろいろ不満に思うところはあったんだけど、それを上回る魅力があるから「全て良し!」という感じだったけど、今回の作品は不満が多すぎて「全てダメ!」って感じになってしまいました。僕が思う一番のNGポイントはフォースの雑な扱いですね。フォースには血統も努力も必要無くなりました。同時に神秘性も消え失せてただの便利な超能力と化してしまいました。宝くじみたいに運が良ければ誰でも使えます。この辺の違和感が大きかったですね。
それでも8位(ビリではない)というのは、そこはさすがにスター・ウォーズという感じ。期待が大きすぎてショックが大きかったけど次回作も必ず観に行ってしまうことでしょう。次回作はJ・J・エイブラムスが監督に復帰。エピソード8は実はレイがみていた長い夢でしたみたいに「なかった」ことにしてくれないかな(笑)

7位
ハクソー・リッジ


監督:メル・ギブソン
出演:アンドリュー・ガーフィールド/サム・ワーシントン/ルーク・ブレイシー

信念と頑固の違い

遠藤周作原作の「沈黙」の映画で知ったのですが、当時のお役人はキリシタンを必ずしも徹底的に排除しようとしたわけではなく、時には「形式的でもいいから踏み絵したら見逃してやる」というスタンスも見せたようです。それでも信仰が厚い人は踏み絵ができずに処罰されてしまったわけですが、その辺は要領の範囲なんじゃないかなと。いくらなんでも神様も踏み絵をしないと自分の可愛い信者が殺されてしまうなら、信者の踏み絵を許してくれたと思います。合理的な現代の世の中を生きている僕はそんな風に冷めたことを思ってしまうわけですが、このハクソー・リッジの主人公のデズモンドも信心深いキリシタンと同じくらいに不器用に信念を貫きます。戦場で人助けをしたいけど、信念に反するという理由から銃を持つことを拒否するのです。訓練で持つことすらNG。その自分の信念のために周りの仲間が罰を受けても頑なに銃を持つことを拒みます。

この主役のデズモンドを演じるのは奇しくも「沈黙」の主役を演じたアンドリュー・ガーフィールド。沈黙では信念を曲げて抜け殻のようになってしまったけど、今回は信念を貫き通します。信念を曲げたら自分ではなくなってしまうという考え方は確かにカッコイイ。だけど大切なのはその信念はどれほど意味があるものなのかということ。誰にもできないことを成し遂げるのに必要なのが信念であって、つまらないことにこだわり続けるのはただの頑固。
デズモンドの信念はもちろん前者ということになるんだけど、いかんせん物語の「敵」が日本なのでどうも感情の持っていき方が難しかったです。憎っくき日本という描き方にはなっていないんだけど、客観的な事実として沖縄にアメリカ軍が乗り込んできて、明らかに装備がしょぼい日本兵をどんどんやっつけていくのを見ていると悲しくて辛くて、仲間(事実なのか微妙だけど時には日本兵も)をひたすら救出する主人公の武勇伝を素直に称えられなかったなあ・・。

6位
君の膵臓をたべたい


監督:月川翔
出演:浜辺美波/北村匠海/小栗旬/北川景子

売れ線ポップに泣ける映画

膵臓と聞いて真っ先に思い浮かぶのが病気です。膵臓という臓器が何をしてくれているのかよくわからない上に、ガンという言葉とセットで聞く場合がほとんどだから。なので、病気で主人公が死んでしまう系の映画であろうことは想像がつきました。実際ほぼその通りに進行するんだけど、ささやかに意外な展開があります。そしてそのメッセージは割と心に響きました。ただひたすらに観客を泣かせるためだけに物語は進行して、実際泣くことを目的に来ている人も多いようで、何の躊躇もない思いっきりの嗚咽が時折聞こえてきました。でもその意外な展開が伝えようとするメッセージがあって映画的に少し救われた気がします。小説を読んだ人に聞いてみたところ、この意外な展開のところは小説だと冒頭に語られるらしい。そこは映画のように後半に持ってきた方がインパクトが強くて良かったように思います。病人も健康な人も1日の重さは同じ。1日1日を大切に。そんな感じですかね。

ということで確かに泣けたし、そこそこいいメッセージも発信していたと思うんだけど、どうも素直にこの作品を褒められないのは何故なんだろうという疑問をパンフレットの解説が解消してくれました。Production Notesによれば「キミスイは決してキラキラ青春映画に括られない、いま求められている映画」なんだそうです。そうです。作り手がどうしても表現したかった映画ではなく、大衆から求められてできた映画なんですね。この解説はすごくしっくりきます。その通りだと思います。青春時代のキュンキュンだとか、泣けるとかそういうものを映画に求める人は確かに多い。だから言葉は悪いけど「君たちこんなの好きでしょ?」というスタンスで作ったんでしょうなあ。まあ商売だからある程度仕方ないですけどね。売れ線狙いが行き過ぎるとあざとくなってしまうので要注意。

5位
 アウトレイジ 最終章


監督:北野武
出演:ビートたけし/西田敏行/大杉漣/松重豊

たけし軍団流の皆殺しのメロディ!

アウトレイジ三部作の最終章。アウトレイジシリーズは基本的に人がガンガン殺されていく映画なので、面白いと言ってしまうと何か不謹慎な感じがするのですが、正直言ってたまらなく痛快。そんな僕のようにこの映画を楽しんでしまう人は精神異常なのかというとそういうことじゃなくて、痛快に感じるのは殺されていく人がみんな非道な悪人なんだからだなんだと思うのです。
そりゃあ殺されても仕方ないよねと思えるほどの非道な悪人なので、どれだけ酷い殺され方をしても痛快でしかありません。(前作ビヨンドの木村みたいに、殺されちゃって悲しいキャラも時々いるけど)

痛快ではあるものの一つ一つの殺しのシーンのインパクトは強烈。80年代にたけし軍団がテレビでやらされてたような情けなくて笑える方法で殺されたりするということもあるんだけど、やっぱりキャラ一人一人が丁寧に描かれていて濃いから強烈なんでしょうね。主役級の濃さを持った人たちが殺されるから強烈なインパクトなんだと思います。登場シーンは少なかったけど池内博之が良い味出してました。もうちょっと見たかったし、もうちょっと面白い殺され方が良かったなあ(笑)

4位
 スイス・アーミー・マン


監督:ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート
出演:ポール・ダノ/ダニエル・ラドクリフ/メアリー・エリザベス・ウィンステッド

オナラに始まり、オナラで終わる

「最初のオナラで笑い、最後のオナラで泣かせる奇跡の作品」とパンフレットのレビューに書いてあったけど、僕は最後のオナラでも笑いました。周りの人も結構笑ってました。多分最後のオナラで泣いた人はいないでしょう。何しろオナラですから。
監督のダニエルズ(ダニエル・クワンとダニエル・シャイナート)はミュージックビデオ畑の人だからなんだと思うけど、時々スローモーションになって、いい感じの音楽が流れて、なんだかあれ、もしかして感動的に泣くとこなの?ってシーンがあるんだけど、いやいや十得ナイフのような死体の話で泣きませんから(笑)
ダニエルズはこの映画を「人と人との個人的なつながりだけでなく、社会についての映画」と言い、死体役のダニエル・ラドクリフは「バスのシーンにものすごく感動した」と言うけど、そういうコメントまで含めてギャグだと思ってます。深い意味とか嘘でしょう。なんだこれ!!と半ば呆れながら爆笑、時には失笑すればいいんだと思います。深い意味なんてございません。

3位
ダンケルク


監督:クリストファー・ノーラン
出演:フィオン・ホワイトヘッド/トム・グリン=カーニー/ジャック・ロウデン

戦争映画ではない?脱出サスペンス映画??

映画を見終わった後は、とにかくこれまでの戦争映画と違う!ということしか頭に浮かんでこなくて具体的に何がどう違うのかということを言葉にできなかったのですが、パンフレットの解説を読んでかなり腑に落ちました。かなり良質な出来のパンフレットに感謝です。

まず、クリストファー・ノーラン監督はこの映画を戦争映画ではなくサスペンス映画だと言っています。なるほど。何か普通の戦争映画とは違うと感じたのは、監督がそう考えて作品を作っていたのが大きいと思います。戦争がテーマなのに敵が全然出てこないし、ほとんどの兵士は戦意喪失していて、戦わずにひたすら逃げる。どうやってダンケルクから脱出するか?を描いたサスペンス映画なんだそうです。

次に凄いのは、登場人物に一切感情移入させてくれない演出。最初の30分で主要な登場人物の人柄を描いて、観客に感情移入させて、その人物の挫折や成功に一喜一憂させるのが映画の普通のパターンだと思います。ところが本作はそもそも主人公らしい主人公がいないし、感情移入できるほどそれぞれのキャラを描いていない。だからこそ観客自身が戦場に放り込まれたような感覚におちいります。これも脱出を描いたサスペンスであろうとする演出なんでしょうね。凄い!

最後に印象的だった点は、戦うのではなく逃げるという状況下での兵士の精神状態です。平和な世の中で生まれ育った僕は戦争で戦うなんて想像もつかないけれど、戦場で戦う兵士はある種のトランス状態になって突っ走っていくんじゃないかと思われます。でもそのトランス状態から覚めて、戦う精神状態からひたすら逃げる状態になった時の心境はどれだけ恐ろしいものなんだろう。既にこちらは戦意喪失しているのに敵は攻撃の手を緩めない。ついさっきまで隣にいた戦友が一瞬にして屍になってしまう状況。1分後に自分が生きている保証はない世界。常に緊張状態が続いているのに助けの船が見えた瞬間に喜び、船に乗れた瞬間に喜び、船が出発した瞬間に喜ぶ。いつその船が敵の襲撃で破壊されるか分からないのに。もっと言えば無事に国に帰れても本土決戦になるかもしれないのに。
それでも兵士は些細なことでも物事が好転するごとに喜ぶ。ある意味で過去も未来も関係なく「今のこの瞬間」を生き抜いているんだなと・・。僕だったら本当に安全なところに逃げ帰るまでは全く喜べそうもないけど、些細なことでも喜びを感じて本能的に精神のバランスを取っているのでしょうね。監督の思いに反して恐縮ですが、やっぱりこれは戦争映画なんだと思います。

2位
ゲット・アウト


監督:ジョーダン・ピール
出演:ダニエル・カルーヤ/アリソン・ウィリアムズ/キャサリン・キーナー

1800円を払うに値するビビり顔

サッカーには客を呼べる選手という言葉があります。試合やチームの勝ち負けはどうでもいいけどあの選手のプレーを見るためにスタジアムに行きたいと思わせるような人を表す言葉です。このゲット・アウトの主役ダニエル・カルーヤはまさにそんな役者でした。もう少し正確に言うと宣伝チラシのダニエル・カルーヤの「表情」は是非とも映画館で見てみたいと思わせるものでした。目と口を大きく開いて、恐怖におののいた表情です。いったい何があったのかと気になって仕方ない。ということでどんな境遇に陥ったらあんな表情になるのかを確かめに行ってきました。
ダニエル・カルーヤという役者は初めて見ましたが、落ち着いた雰囲気のカメラマンの役でかなり男前。そんな男前でクールな主人公がしまいには涙を流して恐怖におののく展開になるのですが、それは観てからのお楽しみということで。

この映画のもう一つの要素として人種差別があります。アメリカが抱える人種差別の問題の本質は日本に住んでいるとなかなか理解できないように思います。自分は差別主義者ではないという意識が強すぎるとその意識が知らず知らずのうちに差別を引き起こすこともある。
ダニエル・カルーヤはこれを「日常的差別」と言っていますが、これを防ぐのはかなり難しい。人間の根本的な感情を法律で変えるのは現実的には不可能だと思います。だからと言って本能のままに生きれば良いわけではなく理性で感情をコントロールすることが必要。そのためには差別と無縁の人たちも現実に向き合うことですね。日本人には関係ないと思わないことです。日本人も海外に出れば差別されるし、差別をすることもある。日本国内でも差別がある。白人の警官に黒人が撃ち殺される事件がしばしば起こるアメリカと比べれば日本の差別は激しいものではないけれども、こういう差別に向き合ったエンターテイメントはほとんどない。それはすなわち日本では差別に触れることがタブーになっているからなんでしょうね。差別問題は日本の方が根は深いのかもしれないですね・・・。

説教くさいコメントが長くなりましたが、スリラー映画としても最高の映画でした。
ちなみにダニエル・カルーヤの恐怖におののく表情はなぜか見方によっては笑えてしまうんだけど、コメディアンでもある監督のジョーダン・ピール曰く人を笑わせることと、怖がらせることは共通点があるそうです。ダニエル・カルーヤの怯えた表情が恐怖を感じさせる一方で、ちょっと笑えるのはそういうことなんでしょうね。

1位
アトミック・ブロンド



監督:デヴィッド・リーチ
出演:シャーリーズ・セロン/ジェームズ・マカヴォイ/ソフィア・ブテラ

シャーリズ・セロンの強すぎる美しさ

全てがイイ!
予告編で期待値が上がった状態で観に行くとガッカリする映画もしょっちゅうあるけど、アトミック・ブロンドは期待通り。切れ味鋭いアクションシーン、テンポの良さ、サスペンスとしての謎解きのドキドキ、80年代を代表する素晴らしいサウンドトラックとどれをとっても満点の出来。そんな中で一番良かったのはやっぱりシャーリーズ・セロンでしょうねえ。彼女が演じる主人公は、頭がよくて、ケンカも強いのでめちゃくちゃかっこいいんだけど、僕にはとってもセクシーな人に見えました。
格闘シーンで敵に打ちのめされた時の呻き声もどこか喘ぎ声のような色気。顔面に青あざ作って血だらけになってもキレイなんだよなあ。まあプロデューサーという立場でもあったシャーリーズ・セロンとしては、そういう女性としての美しさは抑えて「強さ」を強調したかったのかもしれないけど、抑えきれていませんでした。
フランス人の諜報員を演じたソフィア・ブテラ曰く「シャーリーズは美しいからこの業界にいるわけではない」とのことだけど、それでもやっぱりこの美しさは彼女の強力な武器だよなあ。
壁があった頃のベルリンという舞台設定も怪しげで良かった。ナチスを題材にした映画は山ほどあるのに、ベルリンの壁を題材にしたサスペンスはこれまであまりなかったような気がします。どの国も非人道的な諜報活動をしていたのだろうから、映画作りにも圧力がかかっていたのかなと勘ぐってしまいます。ベルリンの壁崩壊から30年近く経って、当時の重要機密を知る人達が引退していったので、KGBやCIAもこういう映画が作られても文句を言わなくなったんじゃないでしょうか。ということは今後はベルリンの壁を題材にした映画がどんどん作られていくのかもしれないですね。


いかがでしたか?2017年は上期に良作が集まっていたように思います。2018年はもっとたくさん映画を観てみなさんに良い映画をオススメしたいと思います。
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