カテゴリー
本の感想

やぶさか対談

学生時代に、友人が東海林さだおのエッセイはとても面白いと薦めてくれたんだけど、いまだに1冊も読んだことがないのに気がついて対談集を読んでみました。
東海林さだおはサラリーマン専科とか書いてる漫画家。対談相手は椎名誠。
二人の対談だけじゃないくて、ほとんどの対談はゲストを迎えて3人で展開される。
ゲストは田嶋陽子、大江健三郎、ドクター・中松といった有名人から、秋葉原の実演販売人や無類のラーメン好きなど色んな生き方をしている人を迎える。
二人が凄いなと思うのは、どんなゲストが来てもその人に関連するテーマのお話で盛り上がれるってこと。もちろんゲストは二人が選んでいるから、そもそも二人が興味がある生き方をしている人なんだけど、それにしてもこんなに幅広い人達とよくもまあこんなに話を広げられるものだと感心する。
そして、こういう話が出来る人になりたいなと思う。
自分に関する話で、場を盛り上げることはまだできる。こないだこういう面白いことがあってかくかくしかじか、みたいな。
でも話し相手のテリトリーに入っていって話を盛り上げるのは相当難易度が高いと思う。
決して聞き上手なんていう営業マンのテクニック的な盛り上げ方ではない。
これはトークのテクニックじゃないと思う。二人の生き方が現れてる。色んなことに興味を持って深く知ろうとする、いくつになっても衰えること無い好奇心みたいなものが大切なんじゃないかな。
素敵な生き方。憧れる。
ちなみに僕が一番興味を持ったゲストは大江健三郎。もちろんノーベル文学賞を受賞した人ってことは知ってるけど、難しそうというだけで敬遠してた作家。この人の言葉に対する思慮深さみたいなものは半端じゃない。この対談に来るにあたって、「やぶさか」という言葉について1週間も考えて来たんだそうな。
そういう入れ込み具合に尊敬の念を抱くことはやぶさかでありません。

カテゴリー
本の感想

3652 伊坂幸太郎エッセイ集

あの伊坂幸太郎がエッセイ集を出しているのかと驚きました。
あとがきで本人が書かれているけど、やはりエッセイは苦手なんだそうな。確かにエッセイスト(そんな職業があるのか分からないけど)が書くエッセイとはちょっと違う。
僕がエッセイを面白いと思うのは目の付けどころが違うなーって感心したり、おもしろおかしい表現に出会えるからなんだけど、このエッセイ集はそういうエッセイとはちょっと違うかなあ。
物事を深く掘り下げて捉えた理屈っぽいエッセイという感じでしょうか。理屈っぽいという表現は批判しているように思われるかもしれないけど、そうじゃないです。
その理屈っぽさは伊坂幸太郎っぽさだと思うのです。
ああ、こういう人だからああいう小説が書けるんだなみたいなそういう感じ。
あと、小説に対する愛情がよく伝わって来ます。伊坂さんの書評は本当に丁寧で紹介されている全ての作品を読みたくなってくる。(ということで佐藤哲也という人の本を1冊読んでみたけど、残念ながらちょっと自分好みではなかった・・)
それにしても10年の積み重ねというのは凄い重みですね。2週間くらいで一気に読んじゃったけど、ちょっと失礼だったかな。

カテゴリー
本の感想

夏の入口、模様の出口

同世代の女性のエッセイということで、先日読んだ大宮エリーの「生きるコント」とイメージをダブらせながら読みました。
何気ない日々の出来事を個性的な切り口で面白おかしく書いたエッセイという点では同じだったけど、大宮エリーと比べるとちょっとネガティブな感じがしたなあ。
エッセイの中にも何回か出てくる「なんだかなあ」という言葉。
この言葉の持つ雰囲気が全体に漂ってる感じ。
真っ向から否定するでも無く、もちろん諸手を上げて賛成してるわけでもない。
斜に構えている感じかな。
エッセイを面白いと感じられるかどうかって、あるあるというような感覚や、ああなるほどという感覚を得られるか、つまり共感出来るかってことにかかってる気がするけど、大宮エリーと比べるとそういう感覚が少なかった気がしたなあ。
だからって川上未映子が大宮エリーよりも劣っていると言いたいわけじゃないです。
何となく僕と感覚が違うかなって思っただけ。
感覚の違いはあれど、物事を捉える切り口はやっぱり一般の人よりも違った角度だなって感心しました。
(なんかエラソーだけど)
特に良かったのが「無視力」についてのエッセイ。
数年前からタクシーの運転手は
「シートベルトしてください」
と言わなきゃいけなくなった。
言うほうも言われるほうも、建前でやってるってことが分かってるから言われてもシートベルトしません。
シートベルトしなくても、運転手は全く気にしません。
これって言われてみれば不思議な状況だし、誰もが経験してることだけど改めて考えたことあんまりないと思う。こういうところに目を付けられるのってさすがだと思います。
こんなエッセイがいっぱいだったら大満足だったんだけどなあ。
ひらがなが多くて読みにくく感じたのも入り込めなかった一因かも。
「去年のいまごろはなにしてたのだったかな」
なんて、「今頃」か「何」のどっちかは漢字にしても良いんじゃないでしょうか。
ひらがなだとぱっとイメージが頭に浮かばないから、読み込むのにちょっと時間がかかります。
つまりじっくり読むことになります。これってもしかしたら作戦なんだろうか。
文章を書くことを生業としている人の仕事だから、それくらいの作戦は立てるのかもなあ、なんて思ったりしました。

カテゴリー
本の感想

ぬかるんでから

佐藤哲也という作家は全く知らなかったけど、伊坂幸太郎がエッセイで薦めていたので図書館で借りて読んでみました。
ジャンルも全く分からず読み始めると、堅い文章だったので哲学的な小説なのかなと思ったらかなりブッ飛んでる物語でした。
強いてジャンルを言うならSFなのかな?
ファンタジーと言うにはおどろおどろし過ぎるし。
ともかく13コの短編が収められてます。
リアルな感じで話が進んでいくんだけど突如、天井にはりつくカバがしゃべったりします。でもってそういう不思議な現象に対して、特に謎が明かされるわけでもなく謎が謎で終わります。
こういう突拍子も無い話ってある程度納得させてくれないとなかなか世界に入り込めないのは僕の頭が固いせいなんだろうか。歳か?
ショートショートSFといえば星新一が思い浮かぶんだけど、星新一みたいな明るくちょっと笑える雰囲気じゃなく、危険というか理不尽というかちょっと怖いというか・・。
謎が謎のまま終わるのが、また怖ーい感じを引き立てる。
登場人物がたんたんとしてあんまり感情を表に出さないところなんかは伊坂幸太郎の作品に通じるものがある気がする。
佐藤哲也作品をもっとハリウッド的に面白おかしくすると伊坂作品になるのかな。
で、結局面白かったか?と聞かれれば、つまらなくはないけどこの作家の作品をもっと読もうという気にはならなかったなあ。
まあ、読書の幅が広がって良かったです。

カテゴリー
本の感想

食堂かたつむり

料理に対する深い愛情を感じられる物語ですね。
「食堂かたつむりの料理」という本が出版されているくらい、たくさんの料理が丁寧に描かれてます。
ただ、僕はその辺はあんまり興味無し。
作品中の料理や、優しい登場人物達に癒されもしたけど、強い印象を受けたのは
「人生は厳しい」
ってこと。
例えどんなに純真で優しい人でも、恋人にとても酷い形でフラれてしまったり、
誠実に生きていても病魔に襲われてしまったり・・。
努力とか誠実とかそういうことを無視して不幸が襲ってくるもんなんだと。
ただ、それでは主人公の倫子やその母親の人生が不幸だったかと言うとそうではない。
むしろその逆。
食堂かたつむりに不思議な偶然が重なったりするのは、努力とは無関係に不幸が襲ってくることの裏返しなんじゃないかと思う。容赦なく不幸は訪れるけど、努力し続ければ理屈で説明がつかないような奇跡(少しおおげさだけどあえて)が起こることもあるんだと。
それは、人生に突然訪れる不幸に怯えたり諦めたりするひとには決して起こらない奇跡。
こないだ読んだ「夕映え天使」でも同じようなことを感じたけど、だからこそ人は強く生きられるんじゃないかなって思った。
まあ、つまりは凄く良い本です。