2018年上半期映画ランキングベスト29!

2018年もあっという間に半分が過ぎてしまいました。6月にワールドカップが始まってからは少しペースが落ちましたが、上半期は29本の映画を劇場で鑑賞できました。ということで2018年のランキングを発表したいと思います。みなさんも、CHANNELCINEMA.COMで今年に観たオススメ映画に投票して感想を書いていただければ幸いです。それでは、2018年上期の映画ランキングをどうぞ!

1位
スリー・ビルボード


監督:マーティン・マクドナー
出演:フランシス・マクドーマンド/ウディ・ハレルソン/サム・ロックウェル

愛は愛を来す

最初に書きますがややネタバレしちゃってるので、まだ観てない人は読まないでください。そして今すぐにこの素晴らしい映画をみてください。観たことがある人は続きをどうぞ。

エリン・ブロコビッチみたいな不正や権力と戦う女性の映画なんだと思って観ました。主人公に思いっきり感情移入して、悪い警察官と対決していくような感じかと。全然違いました。確かに怒りが渦巻いています。でもいつの間にか怒りは赦しとともに愛に変わります。怒りの映画ではなく愛の映画なのです。その意外な展開がすばらしい。そしてもう一つ意外な展開は登場人物像。悪役であるはずの警察署長は家族思いで仕事熱心な人だったし、人種差別の暴力警官に思えたディクソンはその強い正義感の表現の仕方を知らないだけだった。主人公も観客が感情移入できるような立派な人とは程遠い。そして教養の無いおバカな尻軽女だとバカにしていたペネロープの「怒りは怒りを来す」という言葉が大きく物事を動かす。
怒りは怒りを来すのであれば、愛は何を来すのか。そうです。愛ですね。愛は愛を来すのです。怒りの連鎖から愛の連鎖にいつの間にかすり替わっているところが本当に素晴らしい映画でした。まさか泣くような映画だとは思いませんでした。ここで泣けという押し付けがましさは一切無いのに。
2018年2月3日(土)鑑賞

2位
はじまりへの旅


監督:マット・ロス
出演:ヴィゴ・モーテンセン/ジョージ・マッケイ/サマンサ・イズラー

Power to the people,Stick it to the man!

本来2017年公開の映画ですが、近所のミニシアターで名画座的に上映されていたので映画館で鑑賞できました。DVDじゃなくて映画館で観られて本当に良かったです。この父親の子育て方法については賛否両論あると思います。残念ながら私は父親ではないので子育て論について深く語ることができませんが、僕がこの映画に惹かれたところは社会のルールや法律であっても疑う姿勢だとか、システムに乗っからずに自分で考えて生きる力強さを感じられるところ。
ただ単にルールを破ることがかっこいいということではないです。人間は社会的な生き物なので、一定のルールは必要だけど、そういう決まりだからというだけで流されて生きるのは違うという力強さを美しく感じました。
それがPower to the people,Stick it to the man(人々に力を、権力にノー)という言葉に凝縮されている思うし、子供への愛情を歌った曲が世の中に数多くある中で、家族が合唱する曲があのバンド(一応ネタバレになるので伏せます)の曲だったり、エンドロールの曲のメッセージに繋がっていたりすると思います。
この映画の伝えたかった本質はそこにあると思いました。学校や会社という組織や社会のルールに疑問を持ってる人にオススメです。いや、映画でも表現されているように極端はダメですよ。
2018年3月4日(日)鑑賞

3位
レディ・バード


監督:グレタ・ガーウィグ
出演:シアーシャ・ローナン/ローリー・メトカーフ/ルーカス・ヘッジズ

94分にギュッと詰められた青春を堪能あれ

パンクスという役柄だったせいか、20TH CENTURY WOMENでグレタ・ガーウィグを初めて観た時に、何か特別なものを感じました。パンフレットで経歴を観ると初監督作品が2018年に公開されるとのこと。間違いなく僕にとってツボな作品だろうと直感しました。その作品がこのレディ・バード。
期待が大きいと得てしてがっかりすることが多いのですが、期待を裏切られない非常にツボな作品でした。
簡単に言うと青春映画。恋愛、部活、友情、親や教師(大人)との確執、将来への不安などなど、「青春」の守備範囲は広く、どこに焦点を当てるか悩ましいところ。で、このレディ・バードは全部描いてます。しかも94分という比較的短めの尺に収めてます。当然一つ一つのエピソードが、よく言えばテンポ良く、悪く言えばあっけなくささっと進行する。それでも何故か一つ一つのエピソードが強烈に輝いている。たった1時間半なのにしっかり青春した感覚に陥るのです。背景について説明らしい説明が全然ないのにさらっと理解させて共感させてしまう・・グレタ・ガーウィグ恐るべし。

2018年6月2日(土)鑑賞

4位
グレイテスト・ショーマン


監督:マイケル・グレイシー
出演:ヒュー・ジャックマン/ザック・エフロン/ミシェル・ウィリアムズ

コンサートに行く感覚でどうぞ

最近までミュージカルってちょっと苦手だったのですが、去年ラ・ラ・ランドを観て考えが変わりました。ストーリーに多少違和感があっても圧倒的な音楽と踊りの素晴らしさがあれば充分楽しめるんだと思い知らされました。このグレイテスト・ショーマンはそのラ・ラ・ランドの音楽スタッフ(ベンジ・パセックとジャスティン・ポール)が手がけた作品。予告編を何度も観ていて音楽はかなり良さそうだなとは思っていたのですが・・もう本当に最高でした。中でもTHIS IS ME、NEVER ENOUGHが良すぎたのでサントラまで買いました。ベンジ・パセッックとジャスティン・ポール曰くTHIS IS MEはケイティ・ペリーやピンク、NEVER ENOUGHはアデルやセリーヌ・ディオンのイメージで作ったそうですが、確かにその辺のアーティストは大好物。僕好みな曲ってことなんだろうなあ。
ストーリーは特に想像から大きく外れることもなくどこかで観たことがあるようなお話なのですが、とにかく音楽が素晴らしすぎるのでこの順位です。これは映画館で是非観ていただきたい作品です。
2018年2月18日(日)鑑賞

5位
リズと青い鳥


監督:山田尚子
出演:種崎敦美/東山奈央/杉浦しおり

良い意味で中途半端

起承転結・・物語の基本とも言えるそれがこの映画には欠けている。なんとなくふわっと問題は起こっていて、それなりにクライマックスを迎えてふわっと終わる。メリハリも足りない。一般論で言えばダメな映画ってことになるんだろうだけど、まさにそこがこの映画の良いところ。
青春というのははっきりした始まりがあったり、何かを成し遂げて終わったりするもんじゃない。いつの間にか始まっていて、いつの間にか終わってるもの。分かりやすい展開があるわけでもない。そんな青春というものを絶妙に表現できていると思いました。
そして青春は繊細で、不安定で、衝動的なもの。そういうところも非常によく描かれている。
今週はモリーズ・ゲームを観るつもりだったんだけど、この映画が高評価だと知って急遽こっちを観ました。確かに素晴らしかったです。予備知識が全く無くて、響け!ユーフォニアムというシリーズ作品のスピンオフということすら知りませんでした。主役の二人は本シリーズでは脇役らしい。どうりでやたらキャラの立った脇役がわんさか出てくるわけだ。脇役と思ってた人たちが普段は主役なんでしょうね。なもんで、「みぞれ」と「のぞみ」という主役二人の名前も僕にとっては紛らわしくて、中盤までちょっと混乱してました。
おそらく本シリーズのファンは僕以上に青春の一コマ感を感じられるんだろうと思います。もちろん予備知識ゼロでも相当感じられるものがあります。我らが京都アニメーションの本気をご堪能ください。あ、我らがと言っても、僕は単に京都在住というだけで、関係者でもなんでもございません。
2018年5月20日(日)鑑賞

6位
30年後の同窓会


監督:リチャード・リンクレイター
出演:スティーヴ・カレル/ブライアン・クランストン/ローレンス・フィッシュバーン

反戦ロードムービー

「50才のスタンド・バイ・ミー」というふれこみだったのでおっさんの青春映画かと思いきや、監督がパンフレットで語っているように戦争映画でした。戦争映画といっても戦場のシーンは一切なし。
それでもこの映画は明確に戦争映画。そして素晴らしい反戦映画でした。ヒロイズムに走る戦争映画は良くないと前から漠然と思っていたのですが、この映画がその思いをさらにはっきりさせてくれました。
戦争映画は殺す人や、生還した人、英雄的な活躍をした人にフォーカスするべきではない。殺された人、帰ってこなかった人、英雄ではなかった人にフォーカスするべきだ。そしてその映画を観た人が多かれ少なかれ「戦争をしてはいけない」と思うような作品であるべきだと思う。表現の自由はあるべきだけど、僕は戦争映画に限ってはそういうものでない限り駄作と評したい。
ベトナム戦争もイラク戦争も嘘の目的で行われた。共産主義から世界を守るため、大量破壊兵器を見つけるため、そういう嘘の名目で多くの若者がジャングルや砂漠に送られた。目的が嘘だったかどうか、本当のところは知る由もないけど少なくともアメリカを守るためではなかった。そういうことをしっかり伝えるいい映画だったと思います。

だからと言って説教臭いわけではなくユーモアも散りばめられているし、確かにスタンド・バイ・ミー的な要素もあります。3人のおっさん(と1人の若者)が爆笑しているシーンのバカ話は正直たいして面白い話じゃない。でも仲間内の笑いってそういうもんですよね。周りから見ていると何が面白いのか分からない話でも仲間の空気感、当時の思い出、いろいろなものが混ざって大爆笑になる。そういうところも良いなあって思いました。だから反戦ってだけの映画じゃないですね。

2018年6月10日(月)鑑賞

7位
ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男


監督:ジョー・ライト
出演:ゲイリー・オールドマン/クリスティン・スコット・トーマス/リリー・ジェームズ

いつまでも Never Surrender!

初めてこの映画の予告編を見たときに、ゲイリー・オールドマン随分太ったなあ、と驚いたのですが特殊メイクアップだ知ってさらに驚きました。その特殊メイクをしたのが辻和弘さんという日本人で、見事今年のアカデミー賞のメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞しました。チャーチルを演じたゲイリー・オールドマンも主演男優賞を受賞。否が応でも期待は高まります。ということで初日のレイトショーで観てきました。
正直、ゲイリー・オールドマンの太った姿はメイクだと知って驚いた一方で、役作りという意味ではどうなのか?という思いもありました。ロバート・デ・ニーロやクリスチャン・ベイルのような激ヤセ、激太りをする役者バカっぷりが好きなので、ちょっとズルをしている感じがしていました。でも実際に映画を観たら主演男優賞にふさわしい素晴らしい演技!弱気なおじいちゃんのチャーチルと雄弁な首相としてのチャーチルを見事に演じきってました。そしてもちろんメイクもすごい。ゲイリー・オールドマンの受賞スピーチで辻さん無くしてこの受賞はありえなかったというようなことを言ってたけどその通りだと思うし、そこを差し引いたとしても素晴らしい演技だったと思います。
ということでゲイリー・オールドマンすげえという後味が強烈な映画だったけど、去年観たダンケルクのイギリス側の物語ということもあってストーリー展開にもかなり引き込まれました。ダンケルクでイギリス兵士たちが救出の船を待っている間、本国ではこんなことが行われていたんだなと。
基本的な対立構造としては独裁者ヒトラーに立ち向かうイギリス首相チャーチルなわけで、当然歴史的にはチャーチルが正義。映画のサブタイトルも「ヒトラーから世界を救った男」(原題はDARKEST HOURだけど)でチャーチルはヒーローなわけです。でも、この映画を観ると英雄と愚か者は紙一重なんだと判ります。カレーの兵士を囮に使ってダンケルクの兵士を逃がせたから良かったものの、ダンケルクが失敗していたらチャーチルは犯罪者になっていたかもしれない。
だから、チャーチルの凄いところはダンケルクの決断で成功したことではなく、年老いてもなお情熱と信念を持ち続けて戦い続けたことそのものなんだと思います。結果は重要じゃないなんて青臭いことを言うつもりもないけど、チャーチルもこう言ってます
「成功も失敗も終わりではない。肝心なのは続ける勇気だ」と。
2018年3月30日(金)鑑賞

8位
しあわせの絵の具
愛を描く人 モード・ルイス


監督:アシュリング・ウォルシュ
出演:イーサン・ホーク/サリー・ホーキンス/カリ・マチェット

足るを知る者たち

必要以上に自分の境遇に重ねて観てしまったせいか何度も泣きました。オススメかというと微妙ですが、自分にとっては本当に貴重な作品になりました。今日感じたこの思いを忘れないように、自分のためにレビューを書きます。
孤児院で育った人付き合いの苦手なエベレットと体が不自由で絵を描くことが好きなモード夫婦の絆のお話です。二人に共通するのは他の大勢の人が手にしているものを自分が持っていなくても、自分が持っているものの価値を理解し、それに満足し、幸せを感じられる人だということ。モード・ルイスは不自由な体で、生まれた場所から車で1時間以内の場所から出ることなく生涯を終えたそうです。それを聞くとかわいそうとも思うけど本人は「旅行には興味はない。筆と目の前に窓さえあれば私は満足だ。」と言ったそうです。エベレットとの生活は決して豊かな生活ではなかったけれど、そこには絵を描く自由がある。モードにとってはそれが何より幸せだったのです。
以前西本願寺のお坊さんが仰っていました。人間の欲はきりがない。望みが叶ってももっともっとという欲が出てしまってきりがない。だからこそ今持ってるもので満足して幸せを感じられる心が人生を豊かにすると。それと同じことをこの映画を観て思いました。向上心を捨てろということではなく、自分よりも満たされていない人を見て優越感に浸るということでもない。自分自身を見つめて「足るを知る」ことが本当のしあわせに繋がるのだと教えてくれました。
もちろん夫婦の絆の素晴らしさも教えてくれます。この点についても思うところが多々あったけど、あまり色々書くとブレちゃうのでこの辺で。
2018年3月17日(土)鑑賞

9位
アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル


監督:クレイグ・ギレスピー
出演:マーゴット・ロビー/セバスチャン・スタン/アリソン・ジャネイ

でも、してないですよね?

「俺は国際的な諜報組織で仕事している」
妄想癖のある人にこう嘘ぶかれたらどう返すだろうか?嘘つけ!と思いながらも、どの組織ですか?とか、そんなこと話ちゃって大丈夫ですか?とか外堀から埋めるような質問をすると思う。
ところが、この映画のとあるシーンでのインタビュアーは
「でも、してないですよね?」
と返す。相手の嘘を否定するのにこれ以上強い否定はない。聞く耳を持たないというか取り付く島がないというか、身も蓋もない。嘘であろうと何であろうと、相手が「している」ということに対して「でも、していないですよね」だ。そもそも接続詞「でも」の使い方が間違ってる。「でも」は相手の言い分を受けてそこから想定される流れとは逆のことを言う時に使うものだろう。「俺はスパイなんだ」に対して「でも銃も使えないんですね」とか「でも運転免許すら持ってないですよね」とかならまだわかる。「俺はスパイなんだ」に「でもスパイじゃないですよね」と返したら、俺の話を聞いてるのか?ってことになっちゃう。完全になめてる。でも、男はいい歳した大人になっても妄想癖を抱いているだけあって、そんなことじゃ挫けない。
「いやしてるんだ」
この返しも凄い。相手の侮蔑の混じった懐疑心に全くひるむことなく、その疑いを晴らそうとする工夫を凝らすことなく同じセリフを繰り返す。そしてそれを受けたインタビュアーはもう一度
「でも、してないですよね?」
・・すげえ。何の意地の張り合いなんだろう。水掛け論の域にすら達していない。で、妄想癖の男は当然のように
「いや、実は本当にしているんだ」
少ない言葉の中に二人の人格が表現されてる面白い会話で爆笑しました。
と、まあネタバレしてしまいましたが、映画の骨子とはほとんど関係ないので問題ないです。かなり楽しめたので上位入賞です。
・・・が、一緒に観に行った奥さんはつまらなくて早く終わってくれという気持ちだったそうです。
2018年5月5日(祝)鑑賞

10位
希望のかなた


監督:アキ・カウリスマキ
出演:シェルワン・ハジ/サカリ・クオスマネン/カイヤ・パカリネン

希望のかなたにあるものは・・

先日、家から歩いて20分のところにあるミニシアターの会員になりました。スクリーンが小さいのはちょっと嫌だけど、何しろ良質な作品を上映してくれるのと、会員は1000円で鑑賞できるのが気に入っています。その映画館でこれを観ました。初めてのアキ・カウリスマキ監督作品。他の作品を観たことが無いから比較のしようが無いけど飾り気の無い落ち着いた雰囲気の作品で、非常にカウリスマキっぽい!・・いや、まあ「ぽい」と言っても他は知らないのですが。
難民という重たいテーマですが、ほのぼのした笑いがあるコメディです。一か八か故郷を捨ててフィンランドにやってきたシリア難民の主人公と、全財産をトランプに賭けてレストランのオーナーになったおやじさんの物語です。二人ともその賭けに奇跡的に勝ったわけですが、その二人が出会ったということも奇跡的な出会いだったんじゃないでしょうか。希望のかなたには良いことがある(こともある)ってことですかね。カウリマスキは難民に対する不穏な共鳴に一石を投じようとしたようですが、僕には希望を持って時には勝負することというメッセージが強く印象に残りました。

カウリスマキ作品に欠かせない犬もいい味出してます。ま、しつこいようですが、「カウリスマキ作品に欠かせない」と言っても他を観たことはないのですが。・・・これから徐々に観ていこうと思います。
2018年1月27日(土)鑑賞

11位
あなたの旅立ち、綴ります


監督:マーク・ペリントン
出演:アマンダ・セイフライド/シャーリー・マクレーン/トーマス・サドスキー

人生遅すぎることなんてない!

前日に観た「しあわせの絵の具」でイーサン・ホークが演じる無骨な男エベレットが、妻が困っている姿をじっと見つめて自分の考えを変えるシーンがあるのですが、その時のエベレットの眼差しがとても印象的でした。相手の気持ちを想像してその気持ちに寄り添うという眼差しでした。
本作でもシャーリー・マクレーン演じるハリエットがアン(アマンダ・セイフライド)に同じような眼差しを送るシーンがとても良かったです。チラシやパンフレットに使われている写真がそのシーンなのですが、実に素敵な表情でした。アンとロビン(トーマス・サドスキー)の恋の予感を遠くから見守るのですが、実際にアマンダ・セイフライドは本作の共演がきっかけでトーマス・サドスキーと2017年に結婚したそうです。
何かを始めるのに年齢なんて関係ないというメッセージもすごく心に響きました。ありきたりとも言えるようなストーリーだけど、素直に感動できたのは主役二人の演技が素晴らしかったからだと思います。
2018年3月18日(日)鑑賞

12位
ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書


監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:メリル・ストリープ/トム・ハンクス/ブルース・グリーンウッド

編集主幹<社主<大統領<??本当の権力者は誰?

昨日、映画通ぶってポーランドの映画を観て自分の経験不足を痛感したので、今日は王道中の王道でペンタゴン・ペーパーズ。監督スピルバーグ、主演メリル・ストリープ、相棒がトム・ハンクス、音楽ジョン・ウィリアムズというギトギトのベッタベタなメンバーですが、やっぱりベタになる人たちというのはそれだけ実力があるってことなんだなあと思い知らせてくれました。きっちり2時間楽しませてくれます。分かりやすすぎる展開が「マンネリ」と評される場合もあるけど、偉大なるマンネリと言えましょう。
表現の自由という正義のために政府という大きな権力に楯つくのか、はたまた権力者に新聞社を潰されるリスクを回避するのかという重い決断がテーマ。もう一つ女性の社会活躍というテーマもあるけどメインは「決断」でしょう。
メリル・ストリープが演じる新聞社の社主とトム・ハンクスが演じる編集主幹という立場の違いが生み出す決断の重さを描いていると思います。・・・が、実際は映画で描かれているよりももっともっと打算的あるいは一か八かのビジネス的な決断だったんじゃないかと思います。もちろん映画だからこれで良いのですが。
もう一つ強く感じたのは戦争の捉え方についてです。勝ち目のない戦争だということを政府が隠していたことがけしからんというのがペンタゴン・ペーパーズの骨子ですが、そもそも戦争をしているということが大問題なわけで、その戦争に勝ち目がないことを隠しているという問題は二の次だと思うのです。そりゃあ問題だとは思うけど。そして戦争を続ける本当の理由は「アメリカの名誉のため」と説明されていたけど、これも全然本当の理由じゃないと思う。戦争は基本的には誰かが儲かっているのです。戦争の理由が本当に名誉だというならまだマシです。誰かの利益が常に戦争の理由なんだと思います。18世紀以降の戦争は究極的には一定の人たちのために行われているようなもんです。彼らがメディアもハリウッドも仕切っていると言われています。ニクソンを始めとする歴代大統領がラスボスなわけではないと思います。結局はメディアをうまく使ってトカゲの尻尾を切っただけなんだと思います。そういう背景でスピルバーグがこの映画を撮ったということもなかなか興味深いです。証拠もないのに決めつけるのはダメですが、そうやって我々一般市民には決して分からないことを、陰謀のセオリーとかなんとかあーだこーだと想像してみるのも楽しいもんです。
2018年4月8日(日)鑑賞

13位
ロープ/戦場の生命線


監督:フェルナンド・レオン・デ・アラノア
出演:ベニチオ・デル・トロ/ティム・ロビンス/オルガ・キュリレンコ

悲劇の中にも笑いを!それが人生

紛争中のバルカン半島(多分ボスニア・ヘルツェゴビナ)で、井戸から死体を引き上げるためのロープを探すというあらすじ。バルカン半島の紛争は民族と宗教が複雑に絡みあった紛争だったこともあり、誰が敵で誰が味方なのか非常に解りにくい紛争だった。昨日まで友人だった人どうしが殺し合う紛争だったそうです。必要なのはたった一本のロープであって、住民のために井戸をキレイにしたいだけなのに様々な邪魔が入る。複雑な利害関係や敵味方関係を背景に主人公たちに与えられたシンプルなミッション。
僕が以前クロアチアを旅行した時に出会ったガイドのおじさんは、かつて旧ユーゴのスパイで、内戦中はボスニアのムスリムと戦ったと言ってました。友人だった隣人同士が殺し合う本当に酷い戦争だったと言ってました。そういうこと聞いていたこともあり、この映画の世界の複雑に入り組んだ悲劇が辛かったです。そんな辛く厳しい状況でもティム・ロビンス演じるビーがおどけてユーモアをかましてくれるのがこの映画の救いです。なので悲劇という作りにはなってません。これぞ人間の強さというか素晴らしさというか。
クロアチアで会ったガイドのおじさんも言ってました。「今はボスニアに(ガイドとして)毎日のように来て、ムスリムの人と一緒にお茶を飲んで笑ってる。人生ってそんなもんだよ。」って。
2018年2月11日(日)鑑賞

14位
ギフテッド


監督:マーク・ウェブ
出演:クリス・エヴァンス/マッケナ・グレイス/オクタヴィア・スペンサー

マッケナ・グレイスこそギフテッド!

去年公開の映画ですが名画座上映で観ました。こうして映画のランキングを作ってますが、良い映画の序列ってなんだろうと考えちゃいました。かなり号泣したし、笑えるシーンもあったし、2時間しっかり楽しめる良い映画であることは間違いない。だけど余韻があまり無かったかな・・。これはもちろん人によると思います。僕の場合子供がいないということもあると思います。親である人が観たら随分印象も違うだろうなと。
子供は人類の宝という言葉があって本当にその通りだと思うのですが、その理屈で考えるとあながちこの映画の祖母の考え方も間違ってないんじゃないかって思ってしまいました。子育て方針がかなり極端に描かれていたけど、少しでも妥協していたら娘の成果はなかったかもしれなかったわけで・・・。オリンピックで金メダルをとるような人も、いわゆる普通の子供が送るような生活を送ってこなかった人っていっぱいいるんじゃないかな。それでも親に感謝する人もいれば、恨む人もいるんだと思います。
人の親であればこの映画を観てそういう感想は持たないのかもなと、ちょっと客観的に自分を見つめて少し寂しくなったり。
んー、余韻がなかったと書いたけど、めちゃくちゃありますね(笑)いろいろ考えさせられました。
あと、若干(いや、かなり)アイ・アム・サムと被ってると思いました。当時ダコタ・ファニングの子供とは思えない演技力の高さに驚いたけど、本作のマッケナ・グレイスも凄まじい演技力。物語の脈絡に関係なくこの子の泣き顔を見たら誰でもつられて泣いてしまいます。どんな役者になっていくのか成長が楽しみです。マッケナ・グレイスこそまさにギフテッドですね。
2018年4月1日(日)鑑賞

15位
ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ


監督:マイケル・ショウォルター
出演:クメイル・ナンジアニ/ゾーイ・カザン/ホリー・ハンター

Diversity & Inclusion

日本でもDiversityという言葉がよく使われるようになったのは9・11から数年経った頃でしょうか。最近よく聞くのはInclusionという言葉。Diversityは「多様性」と訳すだけでなんとなく意味することがわかるけど、Inclusionは「包含」などというおそらく人生で一度も使ったことがない言葉に訳されてしまうのでピンときにくい。
自分なりの解釈では、黒人も白人も黄色人種もいて、クリスチャンもムスリムも仏教徒もいるこの世の中において、あなたの肌が何色だろうと宗教がなんだろうと、あなたと違う他者の存在を認めましょうというのがDiversity。一方で、あなたと違う人種や宗教の人たちとそれぞれの長所を活かして一緒に良い社会を作りましょうというのがInclusionだと思ってます。
自分と違う人たちなんて人間以下!、理解なんかしたくない!っていう考えから、お互いを認める考えが出てきて、さらにお互いと協力していこうという考えに発展したということですね。
あくまで「考え」なので実践されているかどうかは別の話ですが、それを実践したシカゴのカップルの映画です。社会を変えるというような大きな話ではなく、背景に異文化を持つ人が絆を深めようとする時の障害を乗り越えていくお話。
もう一つの大きいテーマは、映画のタイトルにあるように「大病」。これも考えさせられたなあ・・。例えば胃ガンを覚悟した人の診断結果が胃潰瘍だったら良かったと感じるだろうけど、健康だと思ってた人が胃潰瘍と診断されたら辛いと思うのです。これはベクトルの問題ですよね。ベクトルが上向きなのか、下向きなのか。昏睡状態から目が覚めた時の本人と、それを看病していた家族の心情ってこれに近いものがあるんじゃないかな。看病していた家族は昏睡状態から目を覚ましてくれただけで大喜びだけど、本人は目が覚めたら突然弱った体になった自分に気付くわけで、家族の気持ちとのギャップに苦しむことがあるんじゃないかなと。
ま、この辺は非常に偏った僕の感じ方なので、この映画のテーマじゃないかもしれないと思いますが。
2018年5月26日(土)鑑賞

16位
RAW~少女のめざめ~


監督:ジュリア・デュクルノー
出演:ギャランス・マリリエ/エラ・ルンプフ/ラバ・ナイト・ウーフェラ

カニバリズムカーニバル

映画好きの先輩が勧めてくれたので、無条件にあらすじどころかジャンルすら確認せずに観に行ってしまったのですが、映画というものはさすがにジャンルは確認してある程度の心構えをしてから観たほうがいいと痛感しました。
少女のめざめって・・ちょっとアートな感じがする青春モノだと思ってたのですが、がっつりホラーでした。パンフを読むと監督はメタファーだとかなんとか解説していますが、先入観ゼロで観ると完璧なホラーです。しかも超キモイ。でも、キモイと言っても血がドバーッとか内臓がぐちゃとかそういうスプラッター的なキモさじゃないです。ま、そういうシーンも無いわけじゃないけど、精神的にエグられるキモさです。衝撃度がハンパじゃない映画でした。まあ僕が青春映画だと思い込んで観たということも大きいのでしょうが・・・。
2018年2月4日(日)鑑賞

17位
パーティで女の子に話しかけるには


監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル
出演:エル・ファニング/アレックス・シャープ/ニコール・キッドマン

Do more punk to me!(意味不明)

去年観た20TH CENTURY WOMENという映画のパンフで中原昌也さんが
「当たり前のことだが、世の中は、パンクを通過した人としてない人に大別される。」
と書いていました。僕は学生の頃、パンクから派生したハードコアというジャンルの音楽が大好きだったのですが、そんなことは考えもしなかった。でも中原さんに言わせると「当たり前のこと」らしい。そう言われてみると確かに年齢、性別に関係なくパンクを感じる人とそうでない人は大きく違うように思います。じゃあパンクって何?と言われると説明に困るというか、ある程度語れるのですが長くなるのではそれはまたの機会に。
本作はぶっ飛んだ設定であるもののパンクがテーマの映画です。20TH CENTURY WOMENは1979年のアメリカが舞台、本作は1977年のイギリスが舞台。今更70年代のパンクをテーマにした映画が続けて作られたのには意味があるように思います。当時のパンクスが大人になった今、この世の中は若かりしパンクスたちが思い描いていた通りになっているか?あれほど忌み嫌っていたくそったれな大人になってしまっていないか?今も力強く自分を貫き続けているか?そんなメッセージだと受け取りました。
ちなみに両方の作品にエル・ファニングが出演してますが、本人はパンクについてはほとんど知らなかったそうです。
2018年1月6日(土)鑑賞

18位
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監督:齊藤工
出演:斎藤工/高橋一生/松岡茉優

「良い人」って褒め言葉ですか?

金も地位もないし家族も守れないような甲斐性なしだけど良い人。自分の葬式に集まった数少ない友人は変わり者ばかりだけど自分の死を悲しんでくれる人たち。
一方、金も地位もあって葬式には大勢の人が集まる社長さん。ただし葬式に集まった多くの人は仕事上の関係者が多く、心から死を悲しんでくれる人はほとんどいない。
前者の方が人として幸せだとか、生き様が素晴らしい!と思うべきかもしれないけど、全然そう思えなかったです。
誰にでも優しい、あるいはお人好しという生き方はあまり憧れない。女性から「あなたはとても良い人ですね」と言われて喜ぶ男性っていないんじゃないですかね。もちろん「良い人であること」が悪いわけじゃなくて、「良い人」であることが唯一の取り柄であるような人にはなりたくないってことですけど。自分に強みがないと人に優しくなんてできないと思うのです。
まあそれはさておき、映画としてはかなり楽しめました。予告編にもあるからネタバレじゃないと思うけど、佐藤二朗がかなり笑わせてくれます。
ガキ使のサンシャイン池崎パフォーマンス以来、斎藤工(監督名は「齊藤」と書くようです)ってただの色気がある男前じゃないんだと思っていたけど、こういう映画の監督をする才能もあるんですね。こんなに多くの才能に恵まれた齊藤工が、「良い人」であることしか取り柄がない親父さんの物語を描くとはちょっと皮肉。
2018年3月10日(土)鑑賞

19位
ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル


監督:ジェイク・カスダン
出演:ドウェイン・ジョンソン/ジャック・ブラック/ケヴィン・ハート

マジジュマンジ!(言ってみたかっただけ)

以前浦和レッズにいた山瀬という選手が、長期間のリハビリから戻った途端に
「なんやかんや色々いったんリセットしたいっす」
と言い残してマリノスに移籍しました。僕を含め当時のレッズサポーターはたいそう憤ったのを覚えてます。
「おいおいゲームのやりすぎなんじゃねーか。人生にリセットボタンなんかねーぞ!お前がリセットしてもこっちは覚えてるからな!」と。
一方で同じ頃、僕が営業という仕事に悩んでい時に当時の上司が、
「会社の金で営業っていうゲームをさせてもらってるって考えてみたらどうだ?」
とアドバイスをくれました。深刻になりすぎずに肩の力を抜いてみろよってことだったんだと思います。
結局山瀬もその上司も、自分の人生をちょっと引いたところから客観的に見てみることが時には大事だってことが分かってたんでしょう。
あれから10年以上経って僕もようやくそういうことに気づいてきたけど、でもやっぱり人生とゲームには決定的な違いがあって、それは現実の命は一つだけってこと。ライフ3つまでとかライフを誰かにあげるなんてありえないのです。
現実世界では一度死んだらハイそれまでよ。
自分の死を自分で語るなんてありえない。そこへいくとゲームなら
「俺さっき、ケーキ食べたら爆死しちゃった」
って笑えちゃう。いろんなゲームをしてきたけど、確かにそういう理不尽な死に方にたくさん笑ったなあ。

・・・ってところが、この映画は面白かったです。要するにサッカーとかサラリーマンの悩みとか一切関係ないです。長々とすみませんでした。あとNPCのくだり(NPCが分からない人は映画を見てください)も、あーうんうん分かるわあって感じ。
2018年4月21日(日)鑑賞

20位
犬ヶ島


監督:ウェス・アンダーソン
出演:コーユー・ランキン/ブライアン・クランストン/スカーレット・ヨハンソン

ハイセンスのリトマス試験紙

ウディ・アレンの「世界観」だとか、みうらじゅん「ワールド」みたいに形容されるクリエイターの作品は観客を選ぶ作品が多いと思います。そりゃあそうですよね。独特な世界観というのはすなわち万人と感覚が違うということですから。「スピルバーグの世界観」って表現はあんまり聞かないですもんね。ウェス・アンダーソン監督も、そういう観る人を選ぶ類の監督だと思います。そしてこれは完全に僕の主観だけど、ウェス・アンダーソン作品(以下ウェス作品)を好きな人は、オシャレでセンスがイイ。自分をハイセンスと自覚している人は、ダージリン急行やグランド・ブダペスト・ホテル、そしてこの犬ヶ島を観てください。素晴らしい!この映画大好き!って思えたあなたはセンスがイイ。退屈で寝ちゃったという人は自称ハイセンスの可能性を疑いましょう。
もちろん半分冗談ですが、僕はウェス作品を心の底から「素晴らしい!」と言えるような人間になりたいのです。含みのありそうな表現だけどただの本音です。今まで観てきたウェス作品は残念ながら、まあオシャレ・・ってことでいいんだよね?みたいな感じで、見栄をはってワールドの住人ぶってました。いつかウェスワールドのグリーンカードを手に入れたい!そんな心境で迎えた犬ヶ島。大好きな犬がテーマだし、舞台は日本ということで今度こそ心の底から面白い!と言えそうな期待感。映画に対する期待だけじゃなく、ウェス作品を心の底から楽しんでいる自分を発見する期待感。
・・・だったのですが・・うーん。この順位で察してください。決してつまらないっていうわけじゃないのですが、ウェスワールド永住権獲得ならず。
2018年5月27日(日)鑑賞

21位
ルイの9番目の人生


監督:アレクサンドル・アジャ
出演:ジェイミー・ドーナン/サラ・ガドン/エイデン・ロングワース

九転十起の男

キャッチコピーが
「9年間で9度死にかけた少年 その運命に隠された秘密を解き明かせるか」
ということなので、その時点でミステリーだと気付かないといけないのですが、ろくすっぽキャッチコピーなんて読まずに勝手にファンタジーものだと思ってました。
ま、ファンタジー要素は多少あるのですが、基本的には謎解きものでした。
その謎が結構早めに分かってしまったのがちょっと残念。特別僕が鋭いわけじゃなくて、意図的に謎解きしやすいように演出されていたと思います。
ちなみに九転十起は浅野財閥を築いた浅野総一郎の言葉ですが、本作品とは全く関係ございません。
2018年1月21日(日)鑑賞

22位
ビガイルド 欲望のめざめ


監督:ソフィア・コッポラ
出演:コリン・ファレル/ニコール・キッドマン/キルステン・ダンスト/エル・ファニング

楽しませる、惑わす、騙す

Beguiledという単語に馴染みがなかったので映画を観た後に調べてみると最初に出てきた意味が「騙す、欺く、惑わす」。確かにそういう映画だったので、あーなるほどって感じだったのですが、もう一つの意味として「楽しませる、魅する」という意味もあるということを知って、少し怖くなりました。
騙すことと楽しませることって日本語だと全然意味が違うじゃないですか。でもBeguiledという言葉はどちらにも使う言葉なんですね。日本語の「ヤバい」みたいな感じかな。本来全然ダメって意味なのに、最近は寧ろ「素晴らしい」という意味で使われることが多いので。で、この映画はまさにBeguiledなのです。楽しませるし、惑わすし、騙すし・・・。いやー・・怖い怖い。
それにしてもニコール・キッドマンはいくつになってもキレイ。一方でキルステン・ダンストは老けたなあ・・。ちょっと太ったのかな。付き合いが長いソフィア・コッポラは減量を勧めたようですが、丁重に断ったとか(笑)
2018年2月25日(日)鑑賞

23位
ザ・スクエア 思いやりの聖域


監督:リューベン・オストルンド
出演:クレス・バング/エリザベス・モス/ドミニク・ウェスト

だからといってワガママな人だらけの社会が良いってもんでもない

「ゴミのポイ捨てはやめましょう」とか「お年寄りに席を譲りましょう」みたいなモラル的な標語の裏側に人間の本来の性(さが)が透けて見える。人は飲み終わったジュースのペットボトルはその辺にポイっとしたくなるし、電車に乗ったら座りたいもの。
だからと言って、自分以外の人がポイ捨てしたり、お年寄りを無視して席に座り続けているのを見ると腹がたってしまうという、そういう生き物なのです。だから人はそれを社会に求めます。「こんな社会が良いな」と人が考える理想の社会とは、自分は本当はしたくないけど、他人にしてほしいことを具現化したものとも言える。だからモラルというものでお互いを牽制しあうわけなんですね。
「俺もちゃんとするからさ、あんたもひとつよろしく頼むよ」
という具合に。
タイトルの「思いやりの聖域」を言い換えると「困っている人がいれば助ける社会」。そんな社会をみんな望んでいるけど、自分が困ってる人を助けたいわけではない。誰かが誰かを助けている社会、もし自分が困った時には誰かが助けてくれるという安心感がある社会、そういう優しい社会で生きたいということであって、自分が誰かを助けたいわけではないんですよね。もちろん稀にそういう滅私奉公な人もいますが、本来人間は自分勝手な生き物。自我をモラルで抑え込むことで社会的生き物であろうとしている。とりわけ日本人はそれが得意なようです。しかもそれを自覚していて、海外の人からそれを褒められて喜んでいるフシがある。
「僕たち列に横入りなんてしないんですよ。民度が高いでしょう?」
みたいな。それをちょっと居心地が悪く感じるのは、モラルで自我を抑え込んだ仮の姿を褒められてるからなんじゃないかな。この映画を見てそんなことを感じました。
随分と説教臭いレビューになっちゃったけど、まあそんなことを色々考えさせられる映画でした。よってもって「楽しい」映画ではなかったです。
(宣伝チラシでは「笑った」というコメントが溢れてたけど・・)
2018年5月3日(祝)鑑賞

24位
アバウト・レイ 16歳の決断


監督:ギャビー・デラル
出演:ナオミ・ワッツ/エル・ファニング/スーザン・サランドン

可愛い子は何をしても可愛いということか・・

原題は3 GENERATIONSで、レズビアンの祖母、シングルマザーの母、トランスジェンダーの娘(息子)という3世代を描いているのですが、圧倒的に娘(レイ)が主人公なので、邦題の方がタイトルにふさわしいと思います。
この男の子として生きようとしているトランスジェンダーのレイを演じているのがエル・ファニング。この世代の女優では一番の売れっ子ではないでしょうか。どこからどう見てもとっても可愛い女の子。そんなエル・ファニングがトランスジェンダーをどう演じるかが、僕にとってのこの映画の一つのキモでした。でも、スケーターの格好をしても、髪を短く刈り込んでもただの超可愛い女の子じゃないか・・という感じが否めず物語が進んでしまいました。母親からあることを告げられてレイが大はしゃぎして喜ぶシーンで僕は、「うわー超可愛い・・・」と見惚れてしまいました。それってトランスジェンダーの役作りとしては失敗ということですよね。エル・ファニングのせいじゃなくてキャスティングが悪かったんじゃないかなあ。
2018年2月11日(日)鑑賞

25位
シェイプ・オブ・ウォーター


監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:サリー・ホーキンス/オクタヴィア・スペンサー/マイケル・シャノン

あなたは半魚人を美しいと感じますか

半魚人と声が出せない女性の恋愛ファンタジー。この映画が上位にランクインしていないと「ああ、この人は映画を分かってない」と思われてしまいそうで怖いのですが、自分に正直になろうと思います。
マイノリティ、アウトサイダー、The Othersと、色々な呼び方がありますが、そういう少数派のモノや人に対する寛容さとか、その美しさを見出す力だとかを終始試されているように思いました。半魚人(映画では不思議な生きものとされていますが、まあ半魚人です)を美しいと思えないなら、ゲイや黒人を差別する人となんら変わらないですよ?と問われているような感じがしました。結局僕は半魚人を美しいとは思えなかったです。そのせいかあまりこの映画の世界に入れなかったなあ・・。
2018年3月3日(土)鑑賞

26位
君はひとりじゃない


監督:マウゴシュカ・シュモフスカ
出演:ヤヌシュ・ガヨス/マヤ・オスタシュフスカ/ユスティナ・スワラ

まだまだ修行が足りませんでした

今年はできるだけたくさん映画館で鑑賞しようと決意してまして、いよいよポーランドの映画にも手を出してしまいました。・・・が、僕にはまだちょっと早かったようです。つまらないというわけではないんだけど、観客に解釈を委ねる作品でした。
途中から「え、そっち系に進むの?」みたいになって結構ドキドキして期待に胸膨らんだんだけど、その期待の高まりはいつの間にかフェードアウトしてしまう感じ。期待が裏切られてガッカリというんじゃなくて、映画が終わっても終わったことに気付かないというか・・。
劇中で「死人は自分が死んだことに気づいていない」というような話が出てきたけど、それに近い感覚かも。あれ?もしかしてもう映画終わってます??みたいな。なるほどこれで終わりかと気づいてから自分なりに消化するしかないんじゃないですかね。ちなみに僕は見終わってから2時間経ちますがまだ消化できてません(笑)
あとは、まだ行ったことがないポーランドの雰囲気を感じられたのは良かったです。共産主義から資本主義になって20年以上経っても殺風景な街並みや登場人物が暮らすアパートの部屋はまだまだ殺風景な雰囲気が残る。池波正太郎が30年以上前に書いた「映画を見ると得をする」という本で、映画は千円ちょっとのお金で世界中の色々な生活や文化を見られるのが素晴らしいというようなことを言ってました。この映画はまさにその通りだなあと。でも、ポーランドの雰囲気を感じられた結果、旅行の行き先候補としての優先順位は上がらなかったけど(笑)
2018年4月7日(土)鑑賞

27位
さよなら、僕のマンハッタン


監督:マーク・ウェブ
出演:カラム・ターナー/ジェフ・ブリッジス/ケイト・ベッキンセイル

多分嫉妬だけど、なんかお前ムカつく

激しく口論している二人の距離がだんだん近づいていって最後はなぜかキスをして仲直りするというダチョウ倶楽部のギャグのオマージュと思しきシーン(あくまで主観)がありました。すでにマンネリ化しているダチョウ倶楽部のギャグは口論が始まったあたりで展開が読めます。でもまあ口論している二人の組み合わせ次第では結末がわかっていても「本当にキスするのか?」というドキドキはあるわけですが、本作の場合は「え、まさかキスとかすんの?」的ないやーな予感と的中した後のやれやれ感・・・。
ダチョウ倶楽部はアリでも僕マンがナシなのは、正直言って主人公が気に食わないからでしょうねえ。簡単に言うと友達になりたくないタイプ。ニューヨークのボンボン、自立と称して庶民的なところに引っ越すも気軽に実家に帰れるポジション取り、アート的な一面もあって、女にモテない風を装いながらも簡単にヤレちゃう感じ。これ、ニューヨークのスタンダードなんですかね。とにかく全然好きになれませんわ、彼。
謎の隣人が「退屈な人生なんて無いんだよ」って主人公を励まします。確かにそこから主人公の人生は山あり谷ありのまるで映画のような(実際、映画だけど)人生になるわけだけど、残念ながら映画は退屈そのもの。ついこないだ観たギフテッドが良かったから期待してたんだけどちょっとがっかり。
2018年4月14日(土)鑑賞

28位
パティ・ケイク$


監督:ジェレミー・ジャスパー
出演:ダニエル・マクドナルド/シッダルト・ダナンジェイ/ブリジット・エヴァレット

キラーPというほど悪人じゃない

めっちゃいい娘なんです。おばあちゃん大好きだし、ろくでなしのお母さんの代わりに頑張って働いてるし。でもラッパーネームはキラーP。
見た目はかなりイケてない。あだ名はダンボ。でもラッパーネームはキラーP。
自己評価と世間の評価の間にここまでギャップがあるとキラーP本人はさぞかし辛かろう。そして周りの人の目にはダンボはさぞかし痛々しく映っていることでしょう。痛々しい・・そう感じてしまいました。クライマックスに「化けて輝く」演出のために、あえて前半はダサく描いたのだろうけど、その演出が過剰すぎやしないか・・。
主人公たちがあまりにも痛々しいのでスターダムにのし上がっていくとは思えず、どっち方向に展開するのか全く読めなかったです。サクセスストーリーなのか?いやいやこれじゃ無理だろ、ということは青春の挫折が描かれてるのか?って感じで・・。その辺は映画を観てのお楽しみということで。あ、この映画をオススメしてるわけじゃないのですが。
あと、これだけは是非とも書いておきたい。パンフレットの出来がひどすぎる。宣伝チラシに毛が生えた程度。本文たった10ページで内容スカスカ。しかもこれだけボリュームが乏しいのに監督の名前を誤植していて訂正文が入ってました。パティ・ケイクスのラップはイマイチだったけど、このパンフレットはイマイチどころか明らかに劣悪・・。
2018年5月4日(祝)鑑賞

29位
ホース・ソルジャー


監督:ニコライ・フルシー
出演:クリス・ヘムズワース/マイケル・シャノン/マイケル・ペーニャ

よろしくない戦争映画

「武器は魂と馬」というキャッチコピーを聞いて、馬は移動手段にこそなれ、さすがに武器にはならんだろと心の中でつっこんだ。まさか馬の後ろ脚で敵を蹴り殺すとか、敵将を八つ裂きの刑で処刑するとか?いやいや、やっぱり移動手段なんでしょう。戦国武将さながらに馬に乗って敵陣に乗り込んだと、そういうことなのでしょうと。で、まあ結局そういうことなのですが、移動手段であれ武器であれ馬というのは昔から人間にとって「道具」感が強いですね。
イルカさんがかわいそう!という人がわんさかいますが、お馬さんがかわいそう!馬刺しなんて野蛮人の食べるもの!みたいな意見はあまり聞かないですね。イルカより馬のほうがはるかに人間の歴史に貢献してきたと思うんですけどね。これはひとえにイルカのほうが馬よりカワイイからでしょうなあ。動物も結局見た目が大事。
ところで、この「ホース・ソルジャー」は邦題で、原題は「12 STRONG」。12人の強者たちってところでしょうか。「現代戦争なのに馬で戦った」映画ではなくて、「非道なテロに対して真っ先に反撃した勇者」の映画なのです。ちなみに劇中で「ソルジャー(兵士)」じゃなくて「ウォリアー(戦士)」にならないと勝てないというシーンがあるので「ソルジャー」というワードも製作者の意図と違うような気がします。
でも、12STRONGを描いた映画よりも、ホース・ソルジャーを描いた映画のほうがはるかに良い映画だろうと思います。もちろんタイトルを変えただけでは中身は変わらないのですが、12人の勇者などといの一番に復讐しに行くことを讃える映画よりも、いかに現代戦で馬を使った戦いをするのかということを描く映画のほうが良いと思うわけです。
そこが、この映画が最下位である理由と関係します。僕は戦争映画というものは見終わった後に「やっぱり戦争をしてはいけないんだ」という気持ちにさせるべきだと思ってます。かっこいいとか悪者をやっつけてすっきりしたとかそんな感想を抱かせるような映画はナチスやかつての日本のプロパガンダとなんら変わらないと思う。911は悲劇だしあのテロは悪。これは間違いない。でも重要なのは何故テロリストがあのような酷い行いをしたのかを考えてそこを修正すること。理由を探らずにやられたらやりかえすでは何も変わらない。戦争で儲けている人たちの思うツボなのです。
製作のジェリー・ブラッカイマーは
「この映画は娯楽映画だ」と言っていて、監督のニコライ・フルシーは「これは戦争映画ではなく勇気とヒロイズムの映画」だと言ってます。
もちろんそう割り切れればそこまでひどい映画じゃないけど、タリバンとかイスラムとかそういうワードをばんばん出して実話がウリの映画でそう言うのは詭弁だと思う。少なくとも僕にとってはアメリカ礼賛映画でした。ペンタゴンペーパーズもそうだけど、こういう映画をそのまま鵜呑みにしたらよくないと思います。
2018年5月12日(土)鑑賞


いかがでしたか?ロシアワールドカップも終わったのでしばらくおやすみしていたランキング更新も再開していきます!
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